コロナ禍で起きている賃貸トラブル

新型コロナウイルスの感染拡大による営業自粛や感染不安が続く中、賃貸オーナーにも思わぬ深刻な影響が生じています。
借主との間の小さなトラブルから大きなトラブルまで、コロナ禍でオーナーが抱える問題について、実際に起こっている事例をご紹介します。

■賃貸トラブルその1「テナントにおける家賃の減額交渉や滞納と倒産」

家賃の減額交渉や滞納は賃貸住宅オーナーをはじめ、店舗オーナーやビルなどを1棟貸しているテナントオーナーにおいては特に深刻な問題となっています。
飲食店をはじめ、宿泊業や旅行業、タクシーや観光バス、観光施設やカラオケ店やパチンコ店などのエンターテインメント施設、スポーツジムなどをはじめ、小売業などでも、営業自粛や外出自粛などの影響や感染不安から客足が途絶え、売上が9割減となる場合や開店休業状態で家賃の支払いが困難になる事業者が増えています。
コロナへの感染不安から病院や歯科医その他のクリニック、整体院やマッサージ店や音楽教室やカルチャー教室など、人との接触リスクが高い業種でも利用者が激減し、倒産の危機にある業態は少なくありません。
コロナ禍で深刻な打撃を受けている事業者にテナントを貸しているオーナーも、その影響を大きく受けています。
家賃の減額交渉が後を絶たず、それに応じられずにいると家賃が滞納され、しまいに倒産する場合や民事再生が行われ滞納された家賃も回収できなくなるというトラブルです。
問題を深刻化させているのは、減額交渉に応じにくいというオーナー側の事情もあります。
地元の地主などであれば、減額交渉に応じる経済的な余裕もあるかもしれません。
ですが、多くのオーナーが不動産投資の一環として経営していることが多く、しかも投資物件をローンで買っているのが問題を深刻化させているのです。
家賃収入でローンを払っているため、毎月の家賃が入ってこなければ、オーナーもローン返済が困難となり、自己破産ともなりかねません。
特に都心部に数億円のビルを1棟購入し、営業自粛規制が行われやすい居酒屋や接待を伴う夜のお店に貸しているオーナーなどは深刻です。
多額のローンを抱え、減額に応じられないオーナー側の事情も相まって、このままではテナントとともに共倒れするオーナーが増えていくことが懸念されています。

■賃貸トラブルその2「賃貸住宅における家賃の減額交渉や滞納」

賃貸住宅オーナーの間でも、新型コロナウイルスにより、収入が激減したり、仕事を失った人が借主のケースでは家賃の減額交渉に悩まされたり、滞納に悩むオーナーが増えています。
借地借家法のもと、生活拠点を維持すべく借主は厚く保護されているため、数ヶ月程度の滞納では追い出すこともできません。
しかも、最近ではスムーズに入居者を募集するために、敷金なし、礼金なしで入居者を入れているオーナーも少なくありません。
礼金はオーナーが受け取れ、返さなくて良いお金なので、もし受け取っていれば、少しは余裕が持てます。
一方、敷金を差し入れてもらっていれば、滞納した家賃を敷金から差し引くことができました。
空室リスク対策のために、良かれと思って行った敷金・礼金なし物件が裏目に出ているケースも増えています。

■賃貸トラブルその3「夜逃げと後処理」

家賃を滞納されたあげく、ある時、突然と借主がいなくなるというトラブルも増えてきました。
いわゆる夜逃げです。
家財は残されたままで、中にはゴミ屋敷になっていたという事例も少なくありません。
夜逃げするには身を寄せる場所を探す場合やそこまで移動するための交通費なども必要になるわけですが、コロナによって支給された特別給付金が後押しした例もあります。
国民すべてに一律に給付された10万円を元手に、費用面で難しかった夜逃げが敢行されてしまうという皮肉な事態です。
しかも、図々しいことに家財の所有権を放棄するとの連絡だけが入り、オーナーが泣く泣く自らの費用で家財の処分やゴミ屋敷の片付けをしなくてはなりません。
買い取れるものがないかと業者を呼んでも価値あるものは残されておらず、高額な処分費用やハウスクリーニング費用が出ていくだけです。
とはいえ、家財を処分してきれいにしないことには次の入居者も入れることができないので致し方ありません。

■賃貸トラブルその4「テナントでクラスターが発生」

テナントを賃貸しているオーナーで深刻化しているのが、テナントに入っているお店や事業者でのクラスターの発生です。
クラスターが発生すると店名や所在地が公表される場合やニュースで店舗やビルの映像が流されてしまうので、それをキッカケにお店がつぶれるなどして家賃収入が途絶える結果になることもあります。
さらに1棟貸しをしているオーナーの場合、そのうちの1つのテナントでクラスターが発生することで、莫大な費用の支払いを余儀なくされるケースも出ています。
クラスターが発生した店舗が自らの費用で消毒などを行うのではなく、その利用者やスタッフが使った可能性のあるエレベーターやエントランスホール、共同のトイレなどを含め、ビル全体の消毒作業に追われるというオーナーが発生しているためです。
感染リスクへの不安から、エレベーターのボタンを非接触式にしてほしいと要望が出る場合や実際に変更を行うオーナーも増えており、新型コロナウイルスの影響で思わぬコストが発生し、悩まされている事例も少なくありません。

■賃貸トラブルその5「退去者の増加による空室リスク拡大」

企業でのテレワークが常態化することで、オフィステナントや賃貸住宅の退去者が増えるという深刻な事態に見舞われているオーナーも増えてきました。
都心の大きなオフィスを構えている必要はないと長期安定テナントであるはずの企業が退去してしまうケースが増えています。
賃貸住宅においても、テレワークをするなら田舎の広い一軒家を買ったほうが良いと引越しをするファミリー層やリゾート地への移住をする独身世代が増え、空室リスクが増大しているのです。
大学ではオンライン授業が継続されており、キャンパスに通う必要がない学生が実家に戻るケースも多く、中途解約を申し出るケースもあります。
中にはオーナーが「中途解約したら、授業が再開されても二度と契約しない」などと脅迫じみた引き止め交渉を行い、トラブルに発展しているケースも出ています。
空室を増やしたくない気持ちはわかりますが、引き止め交渉は慎重に行いましょう。