入居者が契約に違反して無断転貸をしているのを発見したとき、オーナーはどのような対応をとるべきなのでしょうか。
無断転貸とは何かと対応をとる際の注意点について、民法上のルールや過去の判例に基づいてご説明します。
■無断転貸とは
オーナーがAという方に、家賃15万円で物件を貸したとしましょう。
借主であるAが自分では入居することなく、Bに対して家賃20万円で貸すことを転貸と言います。
Aは自ら物件を購入することや賃貸管理をする手間なく、オーナーの物件をまた貸しすることで、設定された家賃の差額を儲けることができます。
こうした転貸をオーナー自身が賃貸契約上認めている場合やAの求めに応じて転貸しても良いと承認するなら問題ありませんが、賃貸契約上の定めもなく、承認を得ることもせずに行った場合、無断転貸として問題になります。
■無断転貸の問題点
無断転貸されるとオーナーにはどのようなデメリットがあるのでしょうか。
先の事例でいえば、オーナーはAという人物を入居審査するなどして、この人なら問題ないと貸しています。
賃料を払ってくれるだろうという信頼のほか、この人ならきれいに物件を使ってくれるだろう、近隣とのトラブルを起こすことはないだろうということを、職業や立場、勤務先、家族構成のチェックや実際に面談して確認しているわけです。
にもかかわらず、オーナーが知らない人に勝手に貸されたら、信頼関係が崩れてしまいます。
しかも、自分の物件を使って勝手にお金儲けをされており、万が一、Bが家賃を滞納すれば、Bの賃料を期待していたAもオーナーに対する家賃を払えなくなるかもしれません。
こうした弊害があるので、無断転貸はオーナーにとっては裏切り行為であり、関係を解消したい事態なのです。
■民法上のルール
民法第612条には無断転貸のルールが定められています。
第一に借主はオーナーの承諾を得なければ、転貸することができないとあるので、そもそも無断転貸は民法違反です。
第二に借主が違反して第三者に賃借物の借用又は収益をさせたときは、オーナーは契約の解除をすることができるとあるので、オーナーは無断転貸の解除が可能です。
ただし、転貸の契約が締結されただけでは解除ができず、実際に転借人であるBが使用を開始している際に解除ができます。
また、もう一つ注意点があります。
それは、過去に裁判所が出した判決により、次のような判例に基づくルールがある点です。
転貸がオーナーに対する背信行為であると認めるに足りない特段の事情があると、解除はできません(最判昭和28年9月25日など)。
逆にいうと、特段の事情がなく、背信行為と認められれば、賃貸契約の解除ができ、Aのみならず、転借人であるBに対して直接、物件の明け渡し請求ができます(最判昭和26年5月31日・最2判昭和36年4月28日)。
■背信行為と認めるに足りない特段の事情とは
過去の判例で契約解除に値しない特段の事情ありと認められたケースの代表的な例は次のようなケースです。
転貸したのが親族などの特殊な関係にあり、営利性がなかった場合です(最1判昭和29年10月7日ほか)。
たとえば、自分が海外赴任中に一時的に近くの学校に通う姪っ子を家賃もほぼ得ることなく、住まわせたといった場合などが考えられます。
また、お店のテナントケースでは個人店であった借主が、税金対策などのために法人化して、形式的に見ると法人への転貸となっていたものの、実質的に見れば同じ店主が経営を続けているだけで、賃貸借状態に変化はなかったケースです(最3判昭和38年10月15日ほか)。
また、判例では背信行為か否かは、転貸差益が判定基準の一つともしています。
つまり、賃料と転貸料の差額、借主が差し入れている保証金や敷金と転借人が差し入れている保証金や敷金の差額なども判断材料になります。