最近見聞きする機会が増えるようになったリロケーション物件とはいったい、どのような物件なのでしょうか。
その特徴と仕組みを踏まえ、賃貸経営における物件所有者(オーナー)のメリット、デメリットをご紹介します。
そのうえで、どのようにすれば賃貸経営がうまくいくのかを見ていきます。
■リロケーション物件ってなに?
リロケーション物件とは分譲マンションや戸建て住宅などの持ち家に居住していた方が転勤や海外赴任などにより、しばらくの間住めなくなる期間だけ賃貸される物件を指します。
かつては借家契約においては一定期間だけ、短期間だけという貸し方が認められておらず、2年、3年という期間を定めて貸しても、賃貸契約は更新されるのが当たり前でした。
オーナーの側から更新を拒否するには正当な事由がないと認められず、どうしてもその家に住まないとならない、老朽化が進んでいるから建て直しをしたいなどの事情が必要となり、なおかつ、立退料などを支払う必要がありました。
特段の事情がない限りは更新が原則であったため、人に家を貸したらあげたものと思えというほど、制約がなされていたのです。
もし、将来的に自分が住みたい希望や予定がある場合、いったん貸してしまうと自分たちが住めなくなってしまうかもしれません。
そのため、転勤などで一時的に離れるときには空き家のまま放置するか、親族など理解ある人に無料や低額で貸すか、転勤族である限りはマイホームは持たないという選択が必要でした。
そのような中、明治時代という古い時代に制定された借地借家法の改正がようやく行われました。
平成12年3月の改正で、現代のライフスタイルやニーズに即し、良質な賃貸住宅の供給促進を図るために、定期借家契約が認められるようになったのです。
定期借家契約を締結する場合には通常の賃貸借契約とは異なり、原則として更新が認められず、契約時に定めた一定期間が満了すると、賃貸借契約が終了し、入居者は賃貸物件を明け渡さなくてはなりません。
■物件所有者のメリット
転勤や海外赴任などでマイホームを離れる事情が生じる場合や親の介護や子育てなどのために一時的に別の場所に暮らしたいといったニーズが生じたとき、その期間だけ自宅を貸すことができるようになります。
マイホームを購入するときには住宅ローンを組む方も少なくありません。
住宅ローンの返済が残っているのに転勤などで賃貸住宅などに引越しをし、家賃を払わなくてはならないとなれば、住宅ローンと家賃の二重支払いの負担が生じてしまいます。
この際、リロケーション物件として貸し、家賃収入が入れば、その分を住宅ローンの返済や家賃の支払いに充てることができ、家計負担が軽減されます。
転勤の際には家財も一緒に引っ越す方も多いと思いますが、海外赴任の際には家財は国内に置いていきたいと考える方も少なくありません。
その際、家具や家電製品付きで貸すことも可能です。
古い家具や人には貸せないプライベートなアイテムだけをレンタル倉庫などに収納すれば良くなり、管理コストも抑えられます。
転勤や海外赴任が終わり、期間が満了すれば、再び戻ってくることができます。
通常の賃貸借契約とは異なり、明け渡しを求める正当事由も不要で、立退料を支払う必要もないのもメリットです。
■物件所有者のデメリット
では、リロケーション物件として貸す場合の物件所有者のデメリットはどのようなことが考えられるでしょうか。
一番は契約期間が短縮できないことです。
定期借家契約では、原則として中途解約が認められません。
そのため、転勤や海外赴任の期間が当初の予定より短くなった場合や親の介護などが不要となって元のマイホームに戻りたいときにも、当初定めた定期借家の契約期間が満了するまで待たなくてはなりません。
転勤から元の赴任地に戻ってくる場合には、マイホームが戻ってくるまでの間、賃貸住宅に住むなど仮住まいが必要となります。
転勤場所から仮住まいへの引越し、定期借家契約満了時に仮住まいからマイホームへの引越しが必要となり、二度手間になるのもデメリットです。
荷造りや荷解きの手間や労力もかかりますし、引越し費用も余計にかかってしまいます。
特にファミリー世帯の引越しは荷物の量も多く、引越し料金も高くなり、荷造りなども労力が大きいため注意が必要です。
リロケーションの注意点
ではリロケーション物件を運営していくうえでどのような注意点があるのでしょうか。
5つの注意点を見ていきましょう。
注意点1. 契約を終わらせるには通知期間中に終了通知
定期借家契約は転勤期間中などあらかじめ一定期間を定めて貸す契約であるため、期間が満了すれば当然に契約が終了すると思いがちです。
ですが、オーナーは定期借家契約の期間満了の1年前から6ヶ月前までの間に終了通知を行わなければなりません。
万が一、忘れてしまって通知期間経過後に通知をすると、その通知の日から6ヶ月間は引き続き住み続けることができます。
もちろん、居住している間はこれまで通り、家賃を得ることができますが、自分たちが戻ってくる家が確保できないといった問題にぶつかることがあるため、注意しなくてはなりません。
オーナーだけでは通知を忘れやすいので、賃貸管理会社にフォローしてもらうことが大切です。
注意点2. 普通に貸すより家賃が安くなる
通常の賃貸契約では契約期間は2年や3年と定められますが、期間満了時には契約が基本的に更新されます。
賃借人は希望すれば、長く安定的に暮らし続けることができます。
一方、定期借家契約では約束した期間が満了すれば、退去しなくてはなりません。
短期間しか住めず、引っ越しの手間などもかかるわけですから、家賃は同等の物件に比べて低めに設定しないと借り手がつかないので注意しましょう。
注意点3. 普通に貸すより管理費が高くなる
定期借家契約は、通常の賃貸契約とは異なる取り決めが多く、法律の定めに基づく契約締結や運用が必要となります。
契約締結前の条件説明や公正証書による契約締結、期間満了の1年前から6ヶ月前における終了通知、賃借人からの中途解約は原則として認められないなど、管理も一般の賃貸契約と混同しないよう管理しなくてはなりません。
そのため、家賃は低くなるのに、管理費が高めになる点も注意しましょう。
注意点4. 会社によっては契約期間の変更ができない
転勤が長引く、当初の予定より戻ってくるのが遅くなるといった場合、最初に定めた期間より長く貸したいと思うことがあるかもしれません。
その場合でも、いったん当初の定期借家契約は終了させることが必要です。
そのうえで、改めて期間を定めて再契約を結ぶことにあります。
この場合の定期借家契約は当初の期間より短くても問題ありません。
ですが、会社によっては再契約に応じてくれないこともあるので注意しましょう。
注意点5. 家が傷む
これはリロケーションに限ったことではなく、賃貸契約全般にいえることです。
自分ではなく、他人に使わせることは家が傷む一つの原因です。
大切に使ってくれそうな人をターゲット層に設定するなど、入居審査をしっかり行ってもらうことが大切です。
■それでもリロケーション物件を貸すことのメリット
定めた期間を短縮できないデメリットはあるものの、転勤や海外赴任の期間が延びた場合には、あらかじめ定めておくことで再契約をして、貸し続けることも可能です。
また、仮に契約期間中はマイホームを利用できないという制約があるにせよ、空き家にしておくよりは、家賃収入も入りますし、誰かが住んでいるほうが家の状態もよく保たれることも期待できます。
入居審査を厳しくし、丁寧に住んでくれる人、日々のお掃除などお手入れをしっかりしてくれそうな人を選べば老朽化も防ぐことができます。